能代カップの記憶
驚きのハーフタイムショー
サイト限定
発売記念
制作後記
宝物のような一冊
田臥(勇太)さん率いる能代工が怒涛の連勝街道を突き進んでいた1996年。盛岡の中学校でバスケットボール部に所属していた私は、市内の体育館で能代工が試合をするということを知り、部活の仲間と連れだって観戦に行きました。
言うまでもありませんが当時の中学バスケ部員にとって、能代工は憧れであり、ヒーローのような存在。そのプレーを生で見たいと思ったのです。
試合の直前に会場に着き、体育館に足を踏み入れると、高校生の試合にもかかわらず大勢の観衆で埋まっており、その熱気で圧倒されてしまいそうなほど。目の前で繰り広げられる田臥さんら能代工の一挙一動は想像をはるかに超えるもので、次元の異なるプレーの数々に完全に心をつかまれました。
あの試合で受けた衝撃は、今もはっきりと思い出すことができます。
以来、私たちは「能代工に行きたい」、「田臥さんのようになりたい」という思いを胸に秘め、日々練習に明け暮れました。あの白いシンプルなユニフォームに、ゴシック体で潔く書かれた「能代工髙」の文字に、神聖な憧れを抱いたのです。
結局、私はプレーヤーとしては鳴かず飛ばずで、憧れは憧れのままで終わってしまいましたが、能代工の試合を観戦して以来、バスケットボールという競技の魅力にさらに取り憑かれました。
現在、エディトリアルデザイナーとしてバスケットボールを含むスポーツに関する書籍の制作に携わっているのも、中学2年生のときに見た、あの試合が遠因にあると思っています。「自分が出来ることで、バスケットボールやスポーツに貢献したい」。そう思わせてくれたのです。
能代工がその後の私の人生に影響を与えた、というのは少々言い過ぎかもしれませんが、青春時代の忘れがたい思い出のなかに能代工があるのは間違いありません。
そういった経緯もあり、今回、ベースボール・マガジン社から、能代工の書籍を作るのでデザインをお願いしたいと話があったとき、一も二もなく引き受けさせていただきました。その一方で、脈々と受け継がれてきた能代工の歴史を記録する書籍に、相応しいデザインにしなければいけないというプレッシャーも感じました。
こんなに意義深い書籍のデザインを任せていただけるのだから、自分が出来ることはすべてやり切ろう。エディトリアルデザイナーとして歩んできた約20年、そのひとつの集大成にするつもりでこの仕事に向き合いました。
今回のデザインで心がけたのは、松原さん、清水さん、小永吉さん、三上さんという素晴らしい4人の書き手の文章を邪魔することなく、読者の皆さんがその内容をよりイメージしやすくすること。ページをめくった先に何が展開されるのかを考えながら、文章を一番良いかたちで読者に届くようにサポートすることです。
とりわけ写真のセレクトや配置については熟考しました。書籍で使用した能代工と能代市内の写真の多くは、現地でカメラマンが撮り下ろしたものです。これは制作側にとってはとてもありがたい一種の贅沢であり、同校と出版社の協力なくしてはあり得ない特別なことでした。
表紙に使用したユニフォームとボールの写真も、学校側の協力を得て、伝統ある体育館で撮影しました。高校バスケの歴史を紡いできた選手たちの息づかいや汗のにおい、床を叩くボールの音などが、今なお余韻として残っているかのような空間でした。
本文中にも能代バスケミュージアムからお借りした貴重な資料写真や、ベースボール・マガジン社に保管されていたポジフィルム、著者が個人的に所有していた写真などをページが許す限り使用し、文章のイメージがより膨らむようにしてあります。あり得ないくらい数々の写真が集まったことで、資料性も増し、ビジュアル面においても同校の偉業を末永く伝えていくための表現ができたのではないかと思います。
今回は、その豊富な写真資料を使用して簡易的なWEBサイトと短い導入動画も制作しました。少しでも多くの方にこの書籍のイメージが届いてほしいという想いから、こちらにも最後までエネルギーを注ぎました。
能代工の関係者、4人の著者、出版社、編集者、カメラマン、デザイナー、それぞれの情熱から生まれた本書は、能代工バスケットボール部の魂が凝縮された一冊になったと自負しています。また、書籍の制作過程としても、ひとつの理想的な形が実現できたのではないかと思っています。限られた制作期間ではありましたが、とても濃密で充実した時間でした。
バスケットボールが好きで、エディトリアルデザインに携わっている私にとって、この仕事に微力ながら貢献できたことはこの上ない光栄です。これからデザイナーを続けていく上で、宝物のように手元に置いておきたい作品になりました。能代工を、バスケットボールを愛する多くの方々にも、この本に詰まったスポーツ史に残るストーリーの熱気を共有していただければ、なお幸せです。
